領域横断的にさまざまな分野で働く方々と出会い、話をする──「Independent Perspectives」Vol.2 ラッパー/詩作家・maco marets
「Independent Perspectives」は、活動歴が長くさまざまな試行錯誤を積み重ねてきたインディペンデント・アーティストをゲストに、これまでの実践や経験をシェアしてもらうシリーズです。まずは2024年10月30日にMIDORI.so SHIBUYAにて、maco maretsさんとTORIENAさんをお呼びしたトークイベントを開催します。お二人が経験してきたことを生で聞き、参加者とのQ&A、ミートアップも実施されます。(詳細はこちら)
さらに、コラム企画もスタート。第二回目となる本記事は、上記イベントにも出演するmaco maretsさんが登場。インディペンデントでの活動を展開していく中でどんなことにやりがいを見い出し、何に難しさを感じているのか? 日々、最も大切にしていることは? 欠かせないツールやサービスは? リアルなエピソードを、ぜひご覧ください。
maco marets
Q.インディペンデント・アーティストとしての活動歴を教えてください。
高校時代、地元・福岡の友人と音源制作をはじめ、県内のライブハウスなどでライブをしていました。大学進学を期に上京した後、東京都内のクラブ/ライブハウスで活動を継続。オーガナイザーとしてライブ・DJイベントを主催するほか、クラブスタッフ、音楽メディアでのインターンなどさまざまな立場で音楽の現場に関わりました。2015年、大学3年時にデモ音源をインディー・レーベル「Rallye Label」に持ち込み、2016年リリースの1stアルバム『Orang.Pendek』でCDデビュー。大学卒業後も企業に勤めながら制作を続け、2018年、2作目のアルバム『KINŌ』のリリースを機に自主レーベル「Woodlands Circle」を立ち上げ。以降、活動に関わる企画、マネジメントをすべて自身で行うことになりました。2024年現在まで計7作のソロアルバムをリリースしているほか、藤原さくら、さとうもか、Maika Loubté、Mashinomi、Shin Sakiura、LITEなどさまざまなジャンルのミュージシャンとのコラボレーション楽曲、またEテレ『Zの選択』テーマソングほかテレビ番組・CM楽曲等の制作にも関わっています。また、2022年からは2年続けて渋谷WWWでワンマンを開催。2024年1月には台湾の音楽フェス「NEON OASIS FEST.」に出演、9月には同じく台湾で初の単独公演を行うなど積極的なライブ活動にくわえ、文芸領域(メディアでの連載記事執筆、詩作品集の出版、書店での選書、朗読会 etc.)、ファッション領域(ブランドとのコラボアイテムリリース etc.)ほか多方面で発信を続けています。
Q.自身のアーティストとしてのキャリアにおいて、転換点となった楽曲やイベントがあれば教えてください。
楽曲「Summerluck」とそれを収録したアルバム『KINŌ』は、多数のMVを制作・公開&リリースパーティを開催するなど積極的に企画を行った結果、世のトレンドも相まって一気に認知が高まり、広く聞かれた実感がありました(現在でも再生数の高い楽曲の多くがこのアルバムの収録曲です)。また純粋な音楽イベントではありませんが、2018年にライブ出演した「Making-Love Club」という政治・ジェンダーをテーマにしたトーク/ライブイベントは、現在も制作を共にする間柄であるharu.さん(「HIGH(er) magazine」編集長など)、Webメディア「NEUT Magazine」の面々、そのほか映像ディレクター、編集・ライターなど、インディペンデントに発信を続けるクリエイターたちとの出会いが多くあった、また音楽と社会との関わりを意識するきっかけになったという意味で個人的に大きな転換点となりました。
Q.インディペンデントに活動しているからこそ、挑戦できていることやメリットに感じている部分はどこでしょうか?
どこかに稟議を通したり、レーベルの方針や予算感に配慮したりする必要がないぶん、(もちろん個人で実現可能な範囲ではありますが)自由な挑戦が可能になっていると思います。わたしの場合、とくに客演などの楽曲コラボ、また県内外の小規模なイベントへの出演などを積極的に行なっており、そうした地道な関係づくりから少しずつプレイヤー・リスナーそれぞれとの接点が増え、活動を継続できるくらいの認知をいただけたのだと考えています。そのほかメリットとして、自身の裁量で仕事の内容や多寡をコントロールできることは、苦しい側面も大いにあるとはいえ、少なくとも誰かに「やらされている」のではなく「自分の責任・判断のもとで活動している」という実感を与えてくれ、それが健康的な精神状態を保つことにつながっていると感じます。また個人で活動しているからこそ、少ないリターンでもなんとか生活を保証できていることは言うまでもありません。
Q.インディペンデントに活動していて、難しいと思うことやサポートが必要と感じている部分はどこでしょうか?
「生活を保証できている」と書いたばかりですが、やはりいちばんには資金面で頭を悩ますことが多いです。制作費として使うお金と生活のためのお金を、同じポケットマネーのなかで工面する必要があり、さまざまなライフタイムイベントが重なるタイミングなどでは深刻な資金不足に陥ることも。活動を継続するためにも、なんらかのかたちで資金援助を頼める相手がいてくれたらとても安心できると思います。それからマーケティング、広告の分野においても、やはり作り手自身で使えるリソースは限られているのでサポートがあるとうれしい。わたし自身、作品を完成させるのがやっとで、プロモーションの企画まではなかなか頭が回らないのが課題として感じているところです。
Q.アーティストとしてのキャリアを持続可能にするために、大切にしている/取り組んでいることはありますか?
ひとつは、領域横断的にさまざまな分野で働く方々と出会い、話をするということ。前述の回答とすこし重なりますが、東京に限らず国内外いろいろな土地で、それぞれの立場でものづくり/場所作りに取り組んでいる人たちがいます。実際に足を運び、対話をするなかで自身の活動に活かせるような気づきをたくさん得られますし、ときには具体的な企画へと発展することもある。それに、お互い困ったときに頼ることができる、助けあえるような関係を築くことができれば、それだけで活動を続けていくうえでひとつの大きな安心材料になります。またふたつめは、凡庸な答えになりますが「この人と仕事をしてみたい」、あるいは「この人とは仕事がしやすい、また仕事をしたい」と思ってもらえるよう、どんな場でも相手とのやりとりは丁寧に。メールの返信なども迅速に対応できるよう心がけています(実際どう受け取られているか、自分ではわかりませんが……)。
Q.インディペンデントに活動する上で欠かせないツールやサービスがありましたら教えてください。
個人活動の身で楽曲を配信し、収益を受け取るためにはTuneCore Japan、BIG UP! といったディストリビューションサービスは欠かせません(わたし自身は案件やコラボ相手の意向などによって複数のサービスを利用しています)。また、当然ながらYouTubeやInstagram、X、TikTokといったSNSはプロモーションにおいて必須のプラットフォームだと感じます。
Q. B-Side Incubator のようなインディペンデント・アーティストの活動をサポートする企業や団体(レーベル、ディストリビューター、メディア、マネジメント、ライブハウス/クラブなども含む)に期待したいことは?
画一的なメソッドの提供にとどまらず、アーティストそれぞれに固有のビジョン、環境にあわせた活動方針を一緒に検討してくれるような場があれば非常にありがたいなと感じます(月に1回、定期検診のような感じで相談できる窓口、先生がいるだけでも心強そうです)。またアーティストだけでなく、レーベル、マネジメントやライブハウス/クラブなど業界に関わる人々みんなで知識を共有しあうことで、お金の流れも含めて不要なブラックボックスを解消し、参与者の誰もが搾取されることなくヘルシーに活動を継続できるような環境が生まれてくれたらと期待しています。
プロフィール
maco marets
1995年福岡生まれ、現在は東京を拠点に活動するラッパー/詩作家。2016年に1stアルバム『Orang.Pendek』でCDデビュー。2018年にはセルフレーベル「WoodlandsCircle」を立ち上げ、自身7作目となる最新アルバム『Unready』に至るまでコンスタントに作品リリースを続けている。近年はEテレ「Zの選択」番組テーマソング『Howl』や、藤原さくら、浮、Maika Loubteなどさまざまなアーティストとのコラボレーションワーク、詩集『Lepido and Dendron』の刊行、雑誌/Webメディアでの連載執筆など、多岐にわたる活動で注目を集めている。
【10月30日開催】インディペンデント・アーティストのリアルな活動に迫るトークイベント「Independent Perspectives」が始動!初回ゲストはmaco maretsとTORIENA
maco maretsさんとTORIENAさんをお呼びした、「Independent Perspectives」のトークイベントを開催します! トークセッションや参加者とのQ&A、ミートアップを実施。多くのインディペンデント・アーティストからリスペクトを受けるお二人の、これまでの歩みをひも解いていきます。先着40名となりますので応募はお早めに。詳細はこちら。